*203年*花咲き乱れるあの場所で
ねぇアンドレス。
あたし昨日、ダニールから告白されちゃった。
父さんとダイゾーさんの間に挟まれて思い悩む姉のことを考えていたから、ダニールに声をかけられた時も上の空だった。
ぼんやりしていて、気づいたら幸運の塔で二人きり。
ーーそこは、『願いが叶う』という言い伝えがある場所。
子供の頃はわからないでいたけれど、内に秘めた恋心を想い人に伝える覚悟ができたその時に訪れる、運命の分かれ道となる地。
アンドレスと同じように毎日あたしのところへ来てくれたダニール。
釣りの最中だったり、畑や牧場での仕事中に声をかけてくることが多い間の悪さにイライラすることも正直あったけれどw
でもそれは、ダニールなりの気遣いだったのかもしれないね。
没頭してしまいがちなあたしに息抜きを促してくれていたんだと、今になって思う。
一大決心の色味をうかがえるダニールの面持ち、そしてこんな状況が初めてだったことも相まって、あたしの心臓は早鐘を打つばかりだった。
でも。
そんな極限の緊張感の中でさえもハッキリしていたものがあった。
想いを告げてくれたダニールへの・・・申し訳なさだった。
キク「ダニールのこと、そんな風に考えてなくて・・・ごめんね」
絞り出すような声で答えたあたしはダニールの顔が見られなかった。
気持ちを拒んだ罪悪感から、だけではなくて、彼の痛みに理解が及ぶようになっていたからで。
以前のあたしなら全然わからなかったもの。
だけど、今はそれが切にわかる。
あたしの中にもいつの間にか存在していた初めての想いが、教えてくれたーーー
アンドレスへの気持ちに確信を得たキクはこの日、彼のために、彼の好きそうな、彼に喜んでもらえそうな手料理を初めて準備したのでしたが、当のアンドレスはキクに挨拶を告げただけで颯爽といなくなってしまったのでしたw
くさいスープ、ダメだった!?
根っからのくさいもの好きだと思っていたのにw
アンドレスは本当に読めない男です。
誰よりも熱心な気持ちを言葉と態度で見せてくれていたかと思えば、時折急につれなくなったりするのです。
最初は変なヤツという印象しかなくて、つきまとう彼を疎んじた時期もありました。
顔も性格も素直に言ってしまえば好みのタイプではないし、へたれ加減とかチキンな部分とかも散々見せられ、交流を断ち切るべきかとすら思っていたほどなのに。
それがいつの間にやらどうしたことか。
アンドレスに心を寄せるようになっていった自分の感情の変化に驚くばかりです。
悶々として末の妹と探索へ繰り出したキクの頭の中は、やはりアンドレスのことでいっぱいなのでした。
***
『変わらぬ日常』が『変わる』のは急で予期せぬタイミング。
その日も牧場の飼育小屋でラダの世話に奮闘していたキクでした。
いつものようにアンドレスから声がかかり、でもそれは、この瞬間に繋がっていたのです。
アンドレス「あのさ・・・俺、キクのことが・・・好きなんだ」
咲き乱れる花々のなんたる美しさ。
ザアッ・・・と吹き抜けた風が一斉に王国内の木々を揺らし、葉っぱの緑に溶け込んだアンドレスの髪も艶やかになびいて。
ーーここは、『願いが叶う』という言い伝えがある場所。
内に秘めた恋心を想い人に伝える覚悟ができたその時に訪れる、運命の場所ーー
***お知らせ***
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